Exhibition For Posthumous Works



塚原 弥太郎 銅版画遺作展 ― Nympheたちの遠野物語 ―
9/14〜9/19・2009
銀座 薔薇画廊にて開催。弥太郎の死から一年余り、ステンドグラス作家・平山健雄氏や石版画家・阿部浩氏ら、多くの有志の方々の協力によって実現した。
この場を借り、改めて感謝したい。
【遺作展によせて】
■遠野物語という先住民の気配と霊の世界とを感じさせる伝承の昔話が、どうして塚原の創作意欲をかきたてたのか、私にはわからない。とにかく塚原が、みちのくでの生活の中で、おのずと遠野物語にある様な、自然と土俗的な風習に慣れ親しんでいたからだろうか。
様々な伝承の、史実と不可思議の間隙か、あるいは悠久な時間と空間を場として、空想とロマンを思う存分めぐらし、遠野物語を西洋のニンフ達を主人公にしたメルヘンに変貌させている。何か東洋と西洋の融合を試みているのではないだろうか。そこには、恋愛あり、バッカントの祭りあり、天使や天馬達が架空の世界で躍動して、喜びに満ちている。銅版画の抑揚のある自由な線と、微妙な陰影によって描かれているのである。塚原自身が、その魅惑の世界に沈潜して喜々として楽しんでいる。我々観るものを、さり気なく誘惑してしまう。
塚原の心はデリケートである。合掌。
阿部 浩氏(石版画家)
■新宿四谷の私の自宅から歩いて2,3分の所に実専の同級生がいるとは、入学式後のオリエンテーションで初めて知った。その夜、居酒屋で「芸術の毒気」について語り合ったのが昨日のことのようだ。それから塚原と、油絵の画材を持って一緒に写生にでかけるような友になった。彼は対象の特徴をすばやくつかみ表現することに長けていた。私はと云えば、対象の手前にある歩道の石畳だけを描いているような学生だった。
見かけの生意気さ以上に無頼に人のいい彼は、社会生活にあまり頓着しない岩手での生活に、孤立の楽しみと寂しさを同時に味わいながら制作に没頭していたに違いない。エッチングの線とアクワチントの黒のトーンの内側に、愉悦と孤独を感じてならない。
黄泉の国でいつか又酒を酌み交わそう。
平山 健雄氏(ステンドグラス作家)